IMG_1933.jpg

松沢哲郎

まつざわ てつろう

松沢 哲郎

Tetsuro Matsuzawa

1950年、愛媛県松山市生まれ。1974年、京都大学文学部哲学科卒業。1977年11月から「アイ・プロジェクト」とよばれるチンパンジーの心の研究を始め、野生チンパンジーの生態調査も行う。
チンパンジーの研究を通じて人間の心や行動の進化的起源を探り、「比較認知科学」とよばれる新しい研究領域を開拓した。2016年3月に京都大学霊長類研究所を退職、同年4月京都大学高等研究院特別教授に就任。

 

 2020年11月24日に懲戒の通知がありました。チンパンジー用大型ケージの整備事業にたずさわった者として、経緯を振り返りつつ、私の気持ちをお伝えいたします。

 

 この事業は、愛知県と熊本県にある京大の研究施設にチンパンジー用大型ケージをそれぞれ2基ずつ、計4基を整備したものです。高さ15mのケージとそれをつなぐ連絡通路等が整備され、チンパンジー63個体とボノボ6個体の、群れとしての暮らしを整えた新たな研究ができるようになりました。うち熊本のチンパンジー51個体は、かつてC型肝炎治療薬の開発研究に供されていたものとその子孫を京大が引き取ったものです。

 

「不正使用」と報道されてまいりましたが、私的流用はありません。業者への預け金もありません。大学調査報告書もそれを認めています。報道や大学の説明資料の中で「入札妨害」という用語が用いられていましたが、これは大学が懲戒審査の過程で削除しています。業者との長年の癒着などもありません。日本学術振興会や文科省から交付された全額がケージ建設の事業のみに使われ、国民の皆様に由来するお金はいっさい無駄に使われていません。

 

「会計経理が不適正」というのが会計検査院の指摘です。一般競争入札の手続きが適正におこなわれていなかったという「不適正」の認定が、一般競争入札である高額契約12件すべてについてなされました。その契約総額が9億7019万円で会計検査院が指摘した総額の86%を占めます。しかし、これは「入札手続きが不適正」とされた契約の総額であり、損失額ではありません。大型ケージは設置されて有効に機能しています。

 

 サル類のケージを作製し納入できる業者は、国内に2社しかありませんでした。チンパンジーの大型ケージのように既製品がまったくない、まだ誰も作ったことがないものを作り、かつ仕様書や見積書などの物品購入手続きを規定どおりに進めるのは、むずかしかったと思います。そのむずかしい事業を進めるためには、事業に関わる知識をもち、かつ経理業務に精通した人員を、発注する側に整備しなければなりません。しかし、結果として、それが不十分なままに事業が進行し、不適正な会計経理を指摘されました。

 

 契約全100件について、当時のメールや音声録音記録をもとに経緯を弁護士とともに精査しました。そして、不正の判定の基礎となる大学の調査そのものが事実を誤認しており、このため誤った事実認定に基づく不正の認定になっていること、及びそうした点の不当性を指摘して、不服申立てをして再調査をお願いしてきました。しかし、残念ですが、再調査はされず事実誤認のままの調査報告書をもとに懲戒の認定となりました。

 

 こと志と違って懲戒を受ける身となりましたが、大型ケージによってチンパンジーたちが安寧に暮らし、心の進化の研究がさらに進むことを祈念しています。今後については、弁護士とも相談しながら進んでまいる所存です。この文章を公表することで、関心をもって見守ってくださっている方々へ感謝を申し上げます。  

懲戒の知らせを受けて